下手の横好き(馬と獅子が好きです)

主に西武ライオンズ、競馬のことを主に書いています。

激闘のオランダ戦で繰り広げられた裏の心理戦。牧田大先生らコメント

激闘のオランダ戦で
繰り広げられた裏の心理戦
について、
牧田大先生らのコメントを基に記した
面白い記事がありましたので
掲載します。


牧田大先生の
則本登板の解釈や
戦うときの心理を中心に、
増井や秋吉の心理など
があります。


是非。




侍Jのタイブレーク死闘の裏にもうひとつの心理戦勝利
THE PAGE 3/13(月) 6:00配信


 もう日付が変わろうとしていた。


  4時間46分の死闘のクライマックスは大会特別ルールのタイブレーク。


  延長11回。打席に入る前に「バントでつなぐので後は中田さんよろしくお願いします」と、中田に声をかけてきた鈴木がバントに成功。「一段と気合が入ったような気がした。誠也のためにも何とか意地でも打ってやろうという気持ちでいた」という中田のレフト前タイムリーで2点をリードはしたが、その裏、オランダも無死一、二塁からのスタートなのだ。バントで送られ、1本出れば、たちまち振り出しに戻る。その1本が、豪華メジャー軍団のホームランになれば、逆転サヨナラゲームである。


  マウンドには10回から起用されたサブマリン、牧田がいた。
  オランダは最初の打者、プロファーに強行策を取った。
 「プロファーは長打を打てる打者なのでバントのサインは考えなかった。次のボガーツが今日はあまり当たっていなかったこともあってプロファーに期待した。彼は右投手にも強い」と元ヤクルトのミューレン監督。
  レンジャーズでダルビッシュの同僚として昨季は、90試合に出て打率.239。そのプロファーは初球を強打したが、ファーストフライ。牧田の浮き上がるボールの下を叩いた。


  昨秋の強化試合ので両チームは2試合連続でタイブレークを経験していた。だが牧田は、そのタイブレークでは投げていない。


 「点数も走者も関係なしに、一人、一人、バッターを抑えることに集中した」


  ぶっつけ本番で牧田は、そんな心理でタイブレークに対峙した。


 「とにかく投げ急ぎだけに気をつけた。相手は一発があるので、1球のミスが怖い。いつもより遅めにテンポをとろうと」


  午後10時を過ぎたため、鳴り物応援は禁止となり、スタジアムはシーンと静まり返っていた。
  声援と拍手。逆にいつもの鳴り物に覆われたスタジアムとの違いに戸惑いがあった。
  牧田は、声と拍手が鳴り止んでから、投球モーションに入るようにした。それが、逆に投げ急ぎをなくすためのテンポに、ちょうどいい具合に作用したという。


  続くオールスター出場スラッガーのボガーツはタイミングが合っていない。ほとんどバットで出てこずにフルカウントから、インハイを攻めて詰まらせた。サードゴロ。


  1点リードで迎えたブルペンで肩を作りはじめた時「9回は自分かな」と思ったという。
  だが、権藤投手コーチが、ブルペンに来てストッパーとして則本起用を告げた。


 「相手は一発があるので、三振が取れなければならない。力対力なら僕でなく則本に決めたんだと思う」


  牧田は、則本でのゲームセットをブルペンで祈った。


  だが、その則本がつかまった。9回二死一、三塁からオリオールズで昨季自己最多の25本塁打を放ったスクープに154キロのストレートをはじきかえされ、名手菊池が飛び込んだグラブの下をすり抜けていった。
  6-6の延長10回から牧田に出番が回ってきたのである。


 いつ、どこで投げるかを告げてもらうことは、ブルペン投手にとって、準備する上で必須情報である。もっと言うならば、それはある程度、シミュレーションして、試合前から知っていることが望ましい。


  しかし、小久保監督から投手起用の全権を預けられている権藤投手コーチは、「煮詰まってくるまでストッパーを決めない」という流動式勝利方程式を採用した。彼らの選ばれた能力を信用しているからこそ、状況や相手によって変える戦術である。


  楽天では先発の則本には酷だった。牧田にあって則本になかったもの。それは、前大会も含めた修羅場をくぐってきた経験の数ではなかったか。牧田は、冷静にテンポをコントロールしてみせたのである。


  最後は、途中交代したバレンティンの代わりに4番に入っていたサムズ。メジャークラスではないが昨秋までチームの4番を任された打者である。再びフルカウントからインサイドを攻めた。牧田の気迫に押されたサムズはポーンとフライを打ち上げ、小林がファウルグラウンドで逆向きにキャッチした。


  しびれる場面を心理戦で勝利したのは、牧田一人だけではなかった。
  7回秋吉も、ワンポイント起用に応えた。
  一死一塁から、松井裕の股を抜いた打球にとびついて、そのままグラブトス。場内がざわつき、オランダベンチの名手、シモンズまでが拍手している間に、7回二死一塁から秋吉がマウンドに送られた。打席には、同僚のバレンティン。3回には、5-5の同点に追いつくポール直撃弾を放っている。
 「打席で、こっち見て笑っていた。やり辛かった」


  手のうちは知り尽くしている。


  1球、2球、外のボールになるスライダーで攻めたが、完全に見切られた。
 「振ってくれなかった。逆にスライダーを意識していたのがわかった」
  3球目。ボールひとつスライダーを内側に入れた。レフトラインの左側でバウンドするライナー性のファウル。場内がどよめきに変わり、バレンティンは天を仰いで悔しがった。


 「インサイドをつかわないと打ち取れない相手」


  4球目。秋吉は、勇気を出してインサイドを攻める。142キロのストレート。差し込まれてのファウル。ひとつ間違えばの怖いボールである。だが、果敢に攻めた。“よくぞ、投げてきたな”そんな風体でバレ砲は不気味に笑う。終わってみれば、この1球が配球の肝だった。


 「あのインコースを投げきれたことがよかった」 


  バッテリーに重要なのは洞察、観察、分析力である。
  いわゆる心理戦。
  秋吉は、ヤクルトの4番打者の狙いを察知していた。
  小林がサインで問う。
 「スライダーか?」
  一度、クビを振って、サインがチェンジアップに変わると「そうだ」と強くうなづいた。
 「一発だけを警戒した。低め、低めを意識した」と、外角へ低く変化して落ちたボールにバレンティンのバットはくるっと回った。2人は目を合わせて、お互いに笑った。
 「しびれる場面が多いけれど、そこで抑えることが勝ちにつながる。ワンポイントは大事な仕事」


8回一死満塁の絶対絶命のピンチを救った増井もそうだった。8回から登板した宮西が、連打と四球絡みで一死から塁を埋めてしまうとベンチは増井を送った。


 「自信というか、もう開き直りの気持ちだった」
 「この前は丁寧にいきすぎて結果が出なかった、だから今日は思い切って、腕を振っていった」


  増井は、「開き直って、あとはどうにでもなれ」という心境で全身全霊で腕を振った。
  ボールは走っていた。Ra・オデュベルを3球連続ストレートで攻めた。バットはすべてボールの下。1番のシモンズに対しては、ボール2。インサイドのボールゾーンのボールが打ちに来たシモンズのバットに偶然、当たり、ファウルとなってカウントを稼げた。最後もストレート。ドジャースのショートストップは、ドンづまりのショートゴロ。増井の気持ちがボールに乗り移っていた。
  
  注ぎ込まれた9人の投手が心をひとつにしてつかんだ1勝の意義はとても大きかった。
2次ラウンド突破への視界が開け、そして、短期決戦で最も重要な強い結束力が生まれた。
 「ピッチャー陣というよりも、チームがひとつになれたかなと思います。世界一を奪回するために非常に大きな1勝だと思います」


  真夜中のお立ち台に呼ばれた牧田は、爽やかにそう言った。